認知症の発症は、本人だけでなく、家族へも大きな動揺や不安をもたらします。今まで頼りにしていた親や夫、妻から家族の記憶が失われ、時には別人のような様子になってしまうこともあります。こんなとき、家族は、様々な思いを抱えながら認知症と向き合うことになります。
認知症高齢者を介護する家族の負担とは?
家族が認知症になったとき、家族愛、夫婦愛や家族である義務感から、「自分たちで支えたい」という思いで介護の責任を家族だけで背負い込んでしまうことがあります。
一般的に家族が全面的に介護を行う場合に考えられる負担としては、「介護をする人の健康不安」や「介護者の社会的活動が制限される」こと、更には、「経済的な問題」にまで発展する場合もあります。また、協力してくれる人がいないなどの「孤立感」やいつまで現在の状況や介護が続くか予想がつかないという「介護継続の不安感」などもあります。
認知症の介護には多くの戸惑いや葛藤がともないます。
家族は認知症の方が若い頃の様子や、その方を頼りにしていた日々の記憶を持っています。
ところが認知症は記憶の障害を引き起こすので、本人は家族生活の記憶を忘れていきます。
心の絆である「家族の記憶」が失われることは、なかなか受け入れられません。そのときの家族の喪失感は大きなストレスとなってきます。
しかし、一方で家族であるからこそ介護から得られる喜びもあります。例えば、一緒に居る喜び、介護がうまくいったときや、意思が疎通したと感じる「充実感」、さらに介護を通して人間として成長したと感じたときや、介護から学んだときに感じる「自己成長感」です。
認知症高齢者との関わり方のポイントは?
認知症の人にとって、何度も厳しく注意されることや、今まで見たことのない家族の険しい表情や行動を目の前にした時に、困惑することもあります。
ご本人へ言葉かけの意味はなかなか伝わらない場合でも、認知症の方の「相手の表情を読み取る能力は大きくは損なわれない」という事実が分かっています。
認知症の方の困った行動が見られた場合に、ご家族がついついやり過ぎる指示や注意を行うことがありますが、ご本人には、言葉の意味や内容が伝わらず、「怖い表情」や「怒っている表情」のみが伝わり、困った行動の悪化に繋がる可能性が多々見られます。
逆をいうと、なるべく笑顔で接するように努めることで、ご家族も認知症の方も穏やかに過ごすことが出来ます。
介護サービスや地域の取り組みを活用しましょう
認知症介護を行う家族は、自分たちだけで抱え込まないで、介護サービスや地域での取り組みを上手に活用して、安定した介護環境を築くことが大切です。
特に介護の専門職によるサービスであれば、家族の不安にも寄り添った支援を受けられます。
またデイサービスなどを利用し、お互いに離れた時間を過ごすことも大切です。「介護は家族にしかできない」という気持ちで孤立した介護生活を続けていると、精神的な破綻が起こりやすいものです。適度な距離を保ちながら介護することが、本人と家族の生活の質を良くし、長期的な介護生活を可能にするのです。
認知症介護に不安があるときは、同じような経験をしている介護の仲間をもつことでストレスを和らげることもできます。 近年、地域によって認知症の方とその家族が集う場である「認知症カフェ」などの取り組みが行われています(※コロナ禍で現在は中止している場合もあります)。同じ悩みを抱える当事者同士で情報交換をしたり、悩みを共感しあえたりできます。認知症の介護の悩みは普段、なかなか他人に話せないので、こうした場に参加することで、気持ちがぐっとラクになります。
さらに当事者だけでなく認知症の介護経験者や医療介護の専門職、ソーシャルワーカーなども参加することがあるので、具体的なアドバイスをもらうことができます。
活動内容は団体、グループなどにより様々です。活動情報は地域包括支援センターなどで教えてもらえます。認知症の方を家族で介護することは、すばらしいことですが、認知症の方もその方も支える家族も穏やかに過ごす為に、上記のことを参考にしてもらえたらと思います。