日々の意欲に変動がみられ、食事と水分の摂取量にムラがあり、飲み込む力が低下したことで、体重の減少がみられました。
入居当初K様には、何事に対しても『できない!できない!』とくり返して叫ばれたり、依存が強く、意欲の低下が見られました。
本来の「K様らしさ」とは何かをスタッフ一同で話し合い、検討を重ねました。そして「歌と話が好きで社交的なK様らしさ」を取り戻していただき、明るく元気な生活を送っていただくため、ケアプランを見直し、ケアの実践を行いました。
1. 体重の減少に対する取り組み
アセスメント(情報収集)により、K様の好きな食品をできる限り提供することで、「食べる事の楽しみ」を感じて頂き、栄養補給につなげ、体力増進、体重増加を図って、明るく元気な生活を取り戻せるのではないかと考えました。「主食の粥に好きな卵や野菜を入れる」、「高栄養のゼリーを1日1個提供する」、「身体機能を考慮して、ストローと軽い素材のカップを使用する」といった食事面で工夫を行いました。
2. 生活全般における意欲低下に対する取り組み
生活リズムを作って離床時間を増やし、他者との交流を深めることで歌と話が好きで社交的なK様らしさを取り戻せるのではないかと考えました。
また、居室からリビングに移動し、クッション等で座位保持を図りながら、座位姿勢の観察を行いました。さらに、立ち上がり時の臀部引き上げ介助を実践しました。
昼寝は1時間程度とし、K様への声掛けや返答を職員間で統一しました。K様に職員の名前を覚えて頂けるよう、あえて職員を愛称で呼び合うようにしました。
1. 体重が増加傾向に転じ、入居当初より、BMI値が改善して8キロあまり体重が増え、「痩せ型体型」から「標準型体型」に変化しました。食べる意欲も見られ、歯の治療をきっかけに好物の「かりんとう」を自分の歯で食べられるようになりました。
2. これまでレクリエーションにはあまり参加されないK様でしたが、ボール運動、カルタ取り、に積極的に参加され、他のお客様とも言葉のキャッチボールが可能になりました。また、塗り絵を楽しまれ、元の几帳面な性格が現れるようになりました。
生活リズムが改善し、コミュニケーション・意思表示・歌を歌うなど、表情が豊かになり、明るく社交的なK様らしさが取り戻されました。
「ADL(日常生活動作)」や「QOL(生活の質)」を向上する為の基本は、「栄養改善」と「生活リズムの改善」、にあることを再認識しました。自分で食べ、自分の歯で咀嚼して嚥下することで脳が活性化され、また規則正しい生活を送ることが、体力・筋力の増進に繋がると考えます。
こうして、K様の意欲の向上に繋がり、K様の本来の姿である「歌と話が好きで社交的な性格」が現れ、自己決定や意欲向上などの意思表示もはっきとされ、消極的な言葉もなくなりました。
今回のK様に対する取り組みを通じて、私たちは認知症介護において、アセスメント(情報収集)を通じて「その人らしさ」とは何かを検討すること、こころと身体の両面からアプローチし、「栄養改善」「生活リズムの改善」「医療との連携」などを包括的に取り組み、職員間での介助方法を統一し、チームケアの取り組みを総合的に行うことで、認知症高齢者の「その人らしさ」が取り戻されるのだと考えました。