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母と暮らしたい

2015年10月22日

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お客様プロフィール
A様 68歳 女性
要介護度
要介護5

認知症の進行とご家族の変化

A様は、平成13年に高血圧症、高脂血症を発症、平成14年にアルツハイマー型認知症を発症し、平成17年には急激に認知症状の悪化が見られました。同居家族は夫と長女様の3人暮らしです。基本的に移動・入浴・更衣・食事・排泄すべてにおいて声かけや介助が必要となっております。

A様は「一人でいると混乱してしまう」と、「母として、妻として役割を果たしたい」というニーズがあり、長女様出勤後、デイサービスのお迎えまでの間、ご本人が混乱なく過ごせるように一緒に家事を行いました。また、ご家族(長女様)の「母の認知症の進行を遅らせたい」というニーズでご本人ができる家事については、ゆっくりでもご自身でしていただくように自立支援を念頭に置いて支援を行う計画としました。

訪問介護サービスを開始した平成21年6月ごろ、A様の要介護度は3でした。同年9月、ご家族(長女様)により突然ケアマネジャーが交代となりました。それから同年10月から平成22年5月の間には、要介護度が段階的に3から5にあがりました。
さらに、平成22年7月には長女様とA様がもみあいになってしまいました。
平成22年10月再びケアマネジャーが交代となり、ケアマネジャー不在のなか、市と相談・了解のもと、ケアマネジャー不在のまま特例で10月からは暫定プランのみでサービスを続行することとなりました。11月には長女様がA様をベランダに出し鍵を閉めるというようなことがありました。

課題として、A様の認知症の進行がするに連れて、長女様の認知症への理解ができず、身体的、精神的、感情的な介護の負担がかかり、暴言等が頻発し、A様の認知症が進行するという悪循環になっていることが分かりました。

地域ケア会議を通じてご家族(長女様)との関わり方の模索

長女様に認知症への理解を求めるために説明を試みようとしても、かえって激高させてしまうことがわかりました。主介護者である長女様への関わりを見直すことにより、長女様のA様への対応が改善されるのではないかと仮説を立てました。

平成22年の10月からはケアマネジャーの不在状態になってしまったことや、暴言等が頻発していることから、地域包括支援センターと市や、関係サービス事業所と地域ケア会議を行いながら、どのように支援をしていくかを検討しました。そこで、次の3つの内容を実践しました。地域ケア会議とは、高齢者個人に対する支援の充実と、それを支える社会基盤の整備とを同時に進めていく、地域包括ケアシステムの実現に向けた手法のひとつです。(厚生労働省 平成25年9月20日 地域ケア会議推進に係る全国担当者会議資料より一部抜粋)
1. ケアマネジャー不在時のチームケアの役割
2. 新ケアマネジャー受け入れまでの役割
3. 長女様への関わりを見直す

「1. ケアマネジャー不在時のチームケアの役割」では在宅サービスを続行するためには、新しいケアマネジャーを探す必要がありました。そこで、毎日の訪問時に長女様が話せる雰囲気であれば話しかけ、話せなければメモを残して、ケアマネジャーを決める必要性をアピールしました。その結果、デイサービスの担当者からのすすめで長女様へ声をかけてもらい、スムーズに新しいケアマネジャーが決まりました。

平成22年11月に新しいケアマネジャーが決まり、地域ケア会議を開催しました。
A様の安全確保を最優先とし、ケアマネジャーと関係サービス事業所で、あくまでも肯定的態度で支援する長女様の味方チーム、以前に緊急ショートステイという措置を行った経緯から少し嫌われ役の市や地域包括支援センターのチーム、サービス提供時以外の状況の情報収集を行う民生チームの3つのチームに別れて行動しました。

「2. 新ケアマネジャー受け入れまでの役割」では、長女様の新しいケアマネジャーに対する受け入れがスムーズでなかった為、長女様の味方チームは信頼の厚いヘルパーから「新しいケアマネジャーさんと会った?」「何でもケアマネジャーさんに相談せなあかんで」などと、あえて伝わりやすい短いセンテンスの言葉で親しみを込めてアピールしてもらいました。メモを残すのが有効なことは既に感じていましたので、その方法も使いました。

「3. 長女様への関わりを見直す」では、過去の興奮状態を振り返った時、いずれもヘルパーがA様を庇った(かばった)ところから長女様の言動が極端化していることに気づきました。眼差しや雰囲気も含め、受容的な態度をヘルパー全員が心がけたことにより、興奮状態も一線を超えることもありませんでした。

介護者家族とのコミュニケーションの難しさ

今回、特に難しかったのは、主介護者である長女様とのコミュニケーションでした。
高学歴で社会生活も送られ、認知症の勉強もしっかりされている長女様の母への想いは、平常時は「母と暮らしたい」の一言でしたが、介護負担の大きさのあまり、暴言等もみられるようになりました。
その度に、周囲から孤立していってしまう結果になり、ショートステイの利用などのケアマネジャーの提案も受け入れられないのは何故かと、ずっと疑問に思っていました。
虐待的な行動が表面化してきたことをきっかけに、専門職による地域ケア会議が行われるようになり、そこで精神保健福祉士の方より「アスペルガー症候群の疑いが強い」と言われ、調べたところ、『知的レベルが高く言葉を流暢に操る為、ハンデキャップについて周囲が理解しにくい・会話のキャッチボールができない・自分なりの特定の習慣や手順、順番に強いこだわりがあり変更や変化を極端に嫌う・視覚的な情報が理解しやすい』など、思い当たることがあまりにも多く、もっと早くに相談していれば対応も変わったかもしれないと思いました。

ただ、これはあくまで推測であり、受診をしてみないとわからない事ではあります。
これからは長女様への障害支援センターからの接触も視野に入れていくという段階で、他市への急な転居という形で当社のサービスは終了してしまいましたが、介護職側が共通認識のもとで長女様への関わり方を変えて以降、過度の興奮状態には至っておらず、地域ケア会議の一定の効果はあったものと評価しています。

今回は、他職種によるチームケアの大切さを改めて体感し、訪問介護の専門職としてご家族全体の問題を捉え、ひいてはご利用者の平穏につながる様な関わりをもっていきたいと感じました。

この事例はわたしが担当しました。

この事例はわたしが担当しました。

職種
管理者兼サービス提供責任者
所属施設
神戸支店 ニチイケアセンター川西
名前
田中 知己

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