過去に自宅で少しの段差につまずいて転倒したことがあり、一人暮らしで転倒することに対して、大きな不安を感じている。また、ひざに痛みがあるため、歩き始めが遅く、歩行時に床から足が上げらない状況であり、外出をする機会も以前に比べて減ってきている。
T様から「家の敷居や絨毯につまずいていけん。」「手術してない方の左膝が痛うてなぁ。」「病院で看てもろても『年やけんなぁ、筋肉もおとろえるし・・・』と言われるだけやしなぁ・・・」などの発言があり、転倒してケガをすることの不安を感じられている。
スタッフがお客様との何気ない会話の中で、転倒の要因が「つまづき」にあると着目しました。そこでお客様の転倒防止のために、「転倒不安が解消される下肢筋力向上トレーニング」を計画し、お客様に楽しんでトレーニングして頂けるように取り組みしました。取り組みにあたっては、転倒に対する不安感について、厚生労働省の転倒予防マニュアルに掲載されている『転倒不安感尺度』をもとに、点数化し、取り組み前後での変化を調べることとしました。
通所介護サービスで行う転倒予防体操に加えて、歩行状態改善の有効な体操(爪先とかかとの上げ下げ運動、片足上げ、ひざ伸ばし運動など)を2ヶ月間、週2回のサービス利用時と毎日2回自宅で体操を実施して頂きました。
爪先とかかとの上げ幅は、左右とも改善が見られ、つまずく機会が減少しました。歩行スピードも体操実施後の方が速くなり、歩き始めもスムーズになりました。また、下肢筋力が向上したことにより、転倒不安感を示す指標の数値も改善されました。
お客様自身もひざの痛みが改善され、足が軽くなって楽になったと実感されました。転倒への不安が解消されたことで、外出の機会が増え、お孫さんと一緒に散歩をすることができるようになり、生活の質の向上に繋がりました。さらには、T様から「最近、脚が弱ってきたと言っている妹にも教えてあげたいんよ!」とますます意欲を見せられています。
今回のT様の事例を通じて、個人の転倒要因は一つだけでなく、内的要因、外的要因の両方が影響し合って起こると考えられました。そのため、運動だけでなく、日々の会話や転倒歴の分析から包括的にアプローチすることが必要であると感じました。